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もっとも平穏な黒猫の飼い方。

  日々つれづれ嘘日記、+α。
カテゴリ別ログ_掌編を書こうプロジェクト

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 うすぐらい昼の雨の中を列車がゆく。
 昨日は雨が降ると聞いていたから外出を控えたのに、降らなかった。だから今日も降らないかと思っていたら今日は降った。ままならないが天気予報としては当たっているので文句もいえない。
 昨日は日がな晴れた。青い空にもくもくと白い工場の煙があがっていくのを見て、ちいさいころあの赤白の縞模様の煙突が雲をつくる役目をしているのだと嘘をつかれたことを思い出す。そのときは信じなかった。今思えば、信じてもおかしくないほどよくできた嘘におもえるが(なにせその煙突からでる煙は、じつにまっしろで、形もみごとな逆さ入道雲で、文句のつけようのない雲製造機に見えるのだ)、とにかくその時は信じなかった、雲が人工物だという理屈に本能的な嘘くささを感じたものだろう。
 だから山と山のあいだから水蒸気がのぼって霧とも雲ともつかないものがわきあがるのを初めて見た時はこの上なく納得したものだ、
 でもってその谷間で雲をつくる係りの老女がおおきな釜を樫のへらでこねくってその結果として雲がわいてくるのだと説明されたときはあっさりと信じた。
 どう考えても前者のほうがよくできた嘘だったとおもうのだけれどこればかりは実感される現実味の問題だから如何ともし難い。そのころのわたしについていえば、工場で作る雲より老女が煮て沸かす雲のほうがほんとっぽかったのだろう。いなかの子どもの感覚である。
「それでほんとうのほんとうのところはどうなの?」
 胡坐をかいた足のなかで器用に三角座りをしたうえ荷物を膝において、そこへ両の頬杖をついた鹿彩子がほっぺたを掌でおおっていう、
 窓の外は霧雨のふりはじめのみどりの山々だ。谷間から煙草のけむりを吐くように靄がのぼっている。
「ほんとうのところは知らないな。むかーし近所に雲作りが住んでてね、ヨルダンの香水瓶の中に線香の煙を核にした水蒸気の雲をつくるのが得意だったんだけど、それが空の雲とおんなじものだという確証はないね、だいたいそんな大量に線香を焚いた覚えもないし」
「だけどほんとうのほんとうのところはどうなの?」
「さあ、誰も知らないんじゃないかな。鹿彩子は空に雲が出来るところを見たことがある?」
「ない」
「わたしもない。誰もないと思う。だからわからない」
「台風のこどもはフィリピンの沖で出来るんだってこないだ言ったじゃん」
「だけどわたしフィリピンに行ったことがないしな。そう聞いたことがあるだけ、信用できる筋から」
「信用できる筋」
「うん。天気に詳しいおじさんから」
「そのおじさんはフィリピンに行ったことがあるの?」
「ない。でもアメダスと一心同体だから」
「アメダス?」
「地球のまわりをぐるぐる回って雲ができるところを見ている人工の目のこと」
「うっ」
 鹿彩子は妙な声を出して、
「宇宙飛行士!?」
 わたしをふりあおいだ。
 わたしは首をかしげる。
「いいや、アメダスは衛星だ」
「おじさんはそれに乗っているの!?」
「彼は地球にいる」
「じゃあどうやってアメダスが目で見ているものを見るの!!」
「テレパシーで」
「視神経は!?」
「あくまでもテレパシーで」
 わたしがかたくなに言ったのと同時に汽笛がなる。列車は蒸気を吐き続ける森のなかを地に足つけて疾駆する。わたしたちは銀河鉄道でミルクの河を往くこともできる、テレパシーで。
「それってあたまのなかだけの話とどう違うの?」
 鹿彩子は不服そうで不安そうだ。
「それってあたまの外だけの話とどう違うの?」
 わたしはまぜっかえす。鹿彩子はわたしの胡坐の足のなかでちいさくなり、眠るか宇宙へ往こうかという様子だ。


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アルキヨン |2009/05/28|

あるきよんという鳥がいる。孤独をこのんで海のうえでくらす。陸にいると人間が彼女のうつくしい尾羽を略奪するからだ。しかし、あるとき餌をもとめて巣をはなれている隙に、波が彼女の大切な雛たちをすべてさらっていった。あるきよんは巣にもどって嘆いた、「なんという不幸だろう、危険から逃れたつもりで、もっと危険な者の手に落ちていたなんて!」
ここまではイソップ童話のはなし。
僕のお話では、このあとあるきよんは2ステップだけロンドを踏んでいう。「(A)。」

問。Aにあてはまる言葉を25字以内で答えよ。


|2007/02/25|

 個人が現実に対してなにがしかの効果を失うことを、「灯が消える」と暗喩するようになったのは女帝ベアトリテの時代、彼女の魔法使いであり実の妹であった不具のアスタルテの片腕が燭台であったことに由来する。
 アスタルテの肘から下は青銅に金メッキをした三つ又のロウソク立てになっていて、彼女の腕は常に掲げられていた。腕を下ろすと水平になった燭台から蝋がぽたぽた落ちるためで、その時期、疲れることを「蝋が落ちる」と言うのが流行ったが、これは定着しなかった。あんまりぐったりした様子に見えないからだろう。アスタルテが片腕を降ろす時、大抵その傍らにはベアトリテがいて彼女を労わった。ふたりは双子であり、同じ顔を持ち、別の星を持った。ベアトリテは美しい身体に人徳と正義を述べる声を持ち、アスタルテは欠けた身体に異能と神秘をそなえ、光り輝く姉の影だまりとなった。自ら、望んで。
「静かに、語り継がれているサーガだけれど」
 真夜中と黎明の中間ほどの時刻に、ベッドの上にいて、小さな革の装丁の本をめくりながら無言のキルテイトにサワは話しかける。
「二人はもともと一人だったのだと思うよ。光と影とに分裂していることがその証拠ではないかなあ」
「そうすると腕が三本になってしまいます」
 キルテイトは丁寧に答え、またページをめくる。
「それに、別の星に生まれたなら、やはり別の運命を持った別の魂だと言わざるを得ません」
「星が別であることのほうが事故なんだよ。妹姫は、女帝を女帝にするために切り離された女帝の一部だと思う」
「どなたにです?」
「ベアトリテ自身にさ」
 ゆっくりと椅子をゆらしながら、サワは湯気のあがるマグに唇をつけ、そのまま考えをめぐらす。
「僕たちだってそういうことを、日常的にやると思うよ……。何かを失敗したり、喪ったりしたときにさ、ごまかしたり否定したりするじゃない」
「意味がよく解りません、サワ」
「えーと」サワは視線を柔らかな薄闇の浮く天井へと逸らす。「だから例えば……、ティティスが死んだとする」
「は?」キルテイトは顔を上げ、「ああ……、例えばティティスが死んだとするのですね」
「そうすると僕は悲しい。本当に心の底から、この世界がなくなってしまうよりもずっと悲しい。生きていけないくらいに悲しい。でも、僕は生きていかなきゃならない。だから、ティティスが生きていることにする」
「……例えば、ティティスが生きていることにするのですか?」
「違うよ。本当に生きていることにするんだ。勝手に。事実と違えて」
「死んでいるのに、生きていることにするのですか」
「うん。そうすれば僕は生きていけるだろう。そういうこと」
「…………メタファーとしてなら理解できます」キルテイトは僅かに、頷く。「女帝が女帝たるために、事実と違えて、勝手に陰の部分を切り離したのですね。それが妹姫」
「そう。いつのまにか事実になってしまうんだけれど」
「いつの間にか事実になってしまう?」
 キルテイトは眉根を寄せる。
「いつの間にか? 事実に? それは、いい加減すぎます」
「うーん。ものすごく昔の出来事では、そういうことも起きるんだよ」
「解りません」
 キルテイトは視線を本に戻す。

 サワは燭台の灯を吹き消す。
「キルテイト、僕はもう眠る。君は棚へ」
「はい、サワ」
 キルテイトはきびきびと起き上がってベッドから抜け出す。回路をスリープモードに切り換えながら、主人に質問した。
「わたしも、いつのまにか事実になるのですか」
「うん」
 サワは頷く。「キルテイトも、いつの間にか事実になるよ。長い時間が経てば」
「長い、時間……」
「おやすみ、キルテイト」
 サワは靴を脱いでベッドにもぐりこむと、キルテイトの読んでいた本をサイドテーブルへ避ける。
「省電力モードに移行します」
「それは」サワは毛布をかぶりながら口の中でいう。「夢を見る、と言うんだよ」

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 べちっ、という大きな音でわたしは目を覚ました。
 カーテンを閉じた窓のむこうで、ベッドにのせた頭の上のほうで、窓ガラスを裏から掌でたたく濡れた音がした。
 わたしは被った布団の下でぼんやり目をあけて、外の冷気がわずかに伝わってくる窓のほうを、ほとんど効かない視界の中で見た、
 外はまだ真っ暗だしわたしの身体もちっとも起きそうにない。
 ぼんやりしたまま再び眠りそうになった瞬間、また、べちっ、と音がした。
 今度は思わず身体がびくりと震えるくらい大きな、近い音だった。
 わたしはそっと指先だけでカーテンのすきまを広げてみる。
 窓ガラスの裏に、掌がくっついている。
 大きな、細い指の、白い蜘蛛みたいな手だ。圧された水風船みたいな変形の楕円がいくつもぴったりついている。手相がなんとなく見えるくらいに。
 そのうち手がガラスから離れる。掌が先に、指先が名残を惜しむように後から、離れた瞬間に輪郭が夜の闇にぼやけてしまう、
 べちん。
 また勢いよく張り付く。
 わたしはそっとカーテンを10センチくらい開け、その掌に重なるように自分の掌をガラスにくっつけてみる。
 ガラスはひんやりしている。

 携帯の着メロで目が覚めた。

 夜中だ。あのまま眠り込んでしまった金曜の深夜。きっちり閉じたカーテンのむこうは僅かに薄明るい。目覚まし時計の蓄光する針は4時40分をさしている。携帯電話を見る。非通知。
 わたしはカーテンを10センチくらいあけてみる。このあいだぴかぴかに磨いたばかり。指紋どころか埃もついていない。
 着メロは鳴り続ける。
 非通知。
 うるさくて苛々して、なぜか思わず出てしまった。
「もしもし」
「あっ、すみません。僕は」若い、まじめそうな男の子の声だ。「でたらめに番号を押したらそちらにつながったんです。あの、イタズラとかではなくて」
「…………あなた、さっきもかけてきた」
 あいかわらず彼の後ろにはBGMが聞こえる。どこかの24時間営業の喫茶店ででも粘っているのか。軽快なベース音。
「えっ」
「二回目。なにがデタラメ?」
「いいえ、そんな筈」彼はあきらかに動揺している。「ええ……、でも、もしも二回目だとしても、それは偶然です。なんか、押しやすい並びとかで、うっかり二回もかけちゃったのかも、だとしたら、とても、運命的な間違いですが……。いや何か嘘くさい言い方ですけど」
「こんな時間にそんな電話をかけたら迷惑ですよ」
「あ、ああ、はい。そうですね……」
 彼は息苦しそうに口ごもる。
「……あの。あなたは誰ですか。もしよかったら、知り合いになりませんか」
「わたし、寝ていたんです」
「あっ。ごめんなさい」
 彼の声は急に控えめになる。あかるくてやわらかくて人当たりの良さそうな昼間の声をしていたのに、急にまわりをはばかるように申し訳なさそうに声を窮屈にして、
「じゃあ切ります。ごめんなさい」
 素直に、ささやいた。
「…………」
 わたしは何も答えずに、こちらから切った。
 こんな時間に相手を選ばず電話をかけて、相手が寝ていたら結局切ってしまうなんて、だったら最初からかけなければいいのに、と考えた、
 カーテンの隙間から朝日がさしこむ。
「…………」
 窓がぴかぴかできれいだ。
 もう一度眠ろうと思う。晴れた秋の土曜日に寝不足だなんて片手落ちもいいところだ。
 布団を被る。携帯電話をベッドサイドのテーブルに戻す。目を閉じる。ガラス窓の裏の白い掌。
 


 携帯が震えながらちかちか光りだした。
 深夜のファミレスでバイト終わりのわたしと残業おわりの千佳子さんとでウーロン茶と豚キムチチャーハンの夜食中だった。千佳子さんはドリンクバーを取りに行っていて今いない。千佳子さんの白くて角の丸いストラップの少ない携帯が震えて前進してきながら青と黄色にイルミネーションする。ぶぶぶ。ぶぶぶ。
 思わず二つ折りの携帯の小さい窓をのぞきこんで(男か女かだけでも知りたい)、『非通知』の表示を読み取る。めずらしい、今時わざわざ非通知。
 電話はしつこく鳴っている。
 わたしはカウンターの向こうの千佳子さんをうかがう。紅茶のティーバッグを出しているらしい、くず入れの前でじっと待っている千佳子さん。留守電にもならない電話。電話。
 鳴っている。
 よほど大事な用事だろうか。いまわたしが出て、千佳子さんが戻るまで回線をつないでおいてあげようか。
 いや、着信履歴が残る。いや、非通知だからかけ直せない。
 わたしは千佳子さんと携帯を交互に見守る。千佳子さんはファミレスの強い照明の下で天使の輪ができている赤茶の髪をかきあげて欠伸。携帯はガラスコートのテーブルの上を震えながらずっと進んでいる。ぶぶぶ。ぶぶぶ。
 鳴り止まない。
 わたしはなんだか急に苛々して、ままよ、と電話をとった。
「もしもし?」
 いま千佳子さんは傍にいないけどすぐ帰ってくるので少し待ってください、と言おうとして息を吸った隙をついて、電話口の人はすばやく声をかぶせた。
「すみません、でたらめに番号を押したらそちらに繋がったんです。でもいたずら電話とかじゃないんです、もしよかったら、あなたは誰だか教えてくれませんか」
 若い、真面目そうな男の子の声だった。
 後ろがざわついている。BGMの低いベース音だけが聞こえる。
「…………は?」
「ごめんなさい。怪しいと思うと思うんですけど……、いや勿論、忙しいなら切ってくださってもいいんですが、もしお時間があるなら、ちょっと知り合いになりませんか」
「………忙しいです」
 わたしは相手に口を挟む隙を与えずに、とっとと電話を切った。
 何だ。しつこく鳴らすから緊急の用事かと思ったら、ただのイタズラだった。わたしはがっかりした。もし万一イタズラではなく、彼が説明したとおりの意図があるのだとしても、千佳子さんの電話を勝手に使ってそんなものに付き合うわけにはいかない。
 新手のキャッチや変な宗教だったらもっと困る。
「どしたん、みーちゃん」
 千佳子さんが甘い香りのする赤い紅茶のカップを持って戻ってきた。
「ひとの携帯握って」
「あ」
 わたしは畳んで手に持ったままだった千佳子さんの携帯電話を、千佳子さんに手渡した。
「ごめんなさい。あの、電話があったよ」
「ふん?」
 千佳子さんはわたしを特に咎めもせずに、携帯の画面を開ける。
「出てくれたの?」
「なんか、すごい長く鳴らしてるから、緊急の用事かと思って、つい出ちゃったんだけど」説明しながら、自分が電話に出たことがものすごく非常識なことに思えてきて、だんだん赤面してくる。「なんかね、変な電話だったの」
「変って? あ、ほんとだ非通知」
 履歴を見たらしい千佳子さんがさばさばした調子でいう。「何? 電波?」
「ううん。んー……」電波系といえば電波系かもしれない。「なんかね、適当に番号を押したらつながったんだけどあなたは誰ですか、って」
「へえ。新手のナンパかなあ」
 千佳子さんは言いながら電話を閉じて席に座る。「本当だとしたら暇人よねえ。てゆーかこんな夜中にそんなしつこく鳴らして、寝てる人の携帯だったらとっても迷惑」
「それもそうですね」
 わたしは頷く。確かに、間違いなくその通り。
 それきりわたし達はその電話のことを忘れて、千佳子さんは使えない上司の愚痴の続きを、わたしは妙に遠まわしに「彼氏いる?」と尋ねてくるバイト先の中年の店長の悪口を、お互いがすっきりするまで話した。
 そのあといつもどおり千佳子さんは同棲中の彼氏の部屋に帰り、わたしも終電で家族の待つ家に戻った。
 いつもどおりの、いつもどおりの、いつもどおりの深夜。
 自分の部屋に帰り着いてベッドに倒れこんだら、そのまま次の朝までぐっすり眠れてしまうような金曜日の深夜。


もっとも平穏な黒猫の飼い方。 © 壱緒 2017. (http://horahuky.blog65.fc2.com/)

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This BlogTemplate's origin was written by Tamico. icene . combined and arranged dy 壱緒. THANKS BOTH.
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