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もっとも平穏な黒猫の飼い方。

  日々つれづれ嘘日記、+α。
カテゴリ別ログ_うそにっき―初心者の超短―

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|2012/03/25|

めでたし
せいちょう
みちみてるマリア
しゅ
おんみとともに
まします

おんみはおんなのうちにてしゅくせられ
ごたいないの

「御子イエズスも祝せられ給う……」
 唇のはしに、笑みともいえないような、ちいさな緊張をにじませたまま、
 瞳の表面に、慨嘆とは呼びえないような、うすい涙の膜をただ保湿のためにだけ貼ったような、
 かすかな動揺をさざなみだたせて、祈りの言葉は続く、
「天主の御母聖マリア、罪びとなる我らのために」

いまも
りんじゅうのときも
いのりたまえ

「美しい僕のマリア、こころのそこからあなたを憐れむ」
 磨かれてもいないのに丸く光る小さな爪で、
 聖句をなぞりながら最後までは唱え終えずに声は独白になる。
「死ぬ間際まで見ず知らずの罪びとのために祈れと請われるとは、聖女よ」
 聖母よ、と声音は続く、
「そのために僕たちがどれだけあなたを仰ぎ、そのために誰もがどれほど恥じているか、
貴方はもう死んでいるのできっと知らないのだろうが」
 声音はみずからの不敬に畏まって震える。
「けれど責めることは出来ません。憐れな僕のマリア、そのために僕はきっとあなたを愛するのだし」
 震える。
「そのために僕はきっと久遠に孤独で、空虚で、どこまでも人の子でしかいられない」
 声音はみずからの怒りにしんと冷やされて震える。
 震える。
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 顔をおおって泣いているみたいな猿のすべらかな背中をみていると、雨がゆっくりと窓の外を上がっていく熱が淡い空気を圧して膚に触れるような気がする、
 哀愁だ。実際には「見ざる」のすがたをしている筈のその銀の背は。ちいさい女のそれみたいに肩をちぢめて、わずかに腰を反って泣いているように見える。牙をむいて嗤うケルピーの尾にいて猿は。悪業の鍋を覗いたみたいに。
 赤い蟻が秋の安穏とした朽ち葉のそばを低温にたえかねるような緩慢さで(しかし大柄で獰猛な顎を保持したまま)往き、綾なす黄と朱の明るい/暗い葉脈と斑点のそばをのっそりと/かろやかに縦断する。吹けば飛ぶ細い六足と重い毒を湛えた腹とで。明け方の雨の後の甘く新しい果実のにおいのする苔むした冷やい空気の底を・・・もはや購う女帝もなく、冬眠する巣もなくして、おそらく無限に自由な死途を。
 銀のケルピーの内側にその腐葉土と落葉は閉じ込められている。やわらかく甘い雨と、湿った清い初冬の冷たさと一緒に。
 猿は顔を覆い泣くようにして目を塞ぐ。蟻の足はたぶん空しく銀の壁面を滑る。


―――――――
雨、悪、哀愁、明け、後、綾、蟻、秋、安穏、赤、足、甘い、新しい、淡い、購う、とのことで(多い)

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本能と晩霜 |2010/12/15|

 天寿のピンポイントの中点をさす待ち針というのが売られている。
 小さなピンク色の、虫のたまごみたいな待ち針の頭をもち、利き手で地面に対して垂直に保持して、すっと指を離す、
 落ちて刺さったその場から自分の影のはじまりまでの距離が、天寿の中点である。
 わたしは、なんと、60歳と四か月くらいだった。
「それって、ぎゃくに、おそろしいわね」
 では天寿はギネス記録には及ばない程度ですねと真顔で売り子に云われてすごすご帰ってきたわたしは、ダイニングテーブルでまちうけていた春菜子さんにも真顔で言われる。
「だって定年退職してもまだ、今まで生きてきたと同じだけの人生が残ってるんでしょ。おおこわ」
「春菜子さんは中点どこなの」
 わたしが聞くと、春菜子さんは片眉をくいっと持ち上げて、
「七歳に二か月足らず、くらいだったかなあ」
 と、にやにやしていう。
「えっ。え、春菜子さん、じゃあ、もうすぐ死ぬの」
 わたしがおろおろすると、春菜子さんはおもしろそうに口の端をひいた。
「何言ってるの。もう四、五日過ぎてるわよ」
「ええっ。え、え」
「わたし、天寿を全うしても、きっとそれ以外のものをつかって生き延びるって分かってたわ」
 春菜子さんはあくまでにもやにや笑いながら、やさしい目をしてうそぶく。



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二人静 |2010/11/10|

 頬に沿う女媼の掌が、わたしのじぶんの膚より温く、またしっとりして吸い付くので、とまどって瞬きをした、
 その、目をとじている一瞬のうちに、老女はもういっぽうの手をわたしの頬に沿え、それから西洋の魔女のように目を弓形にほそめる。
「わしの顔ずくで天上をみせてやろう」
 女媼は、白い花の低い穂草にぐるりと囲まれた、青葉で埋まったちいさな土俵みたいな水のない沼へ、わたしの顔を両掌ではさんだままつつつと後ろ歩きしてゆき、
「しっかり板についた二の足をお踏み。仕手なんだから、堂々とおし、御前が降りて来られる、さ」
 と掠れた声でかきくどくが、どうも千鳥足にしかならない。
 やがてどぉんと脳天から膝へ衝撃が抜ける。わたしにおよぶ二つ目の宇宙の貌が、そおっと背骨をみたし、目前の女媼の双眸は銀河模様に透けてひらめく、
「気をたしかにおし。その光はおまえだ」
 皺くちゃの瞼が瞬く一瞬に、ふと頬の熱がはなれる。
 かわりに触れるのは春風だ。気づけばわたしは光り輝く青葉の原にひとり、腰をまげて立ち尽くしている。



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「及己(つきねぐさ)」「顔尽」「挟み込む」ということで

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 深夜近くに帰宅したら、ラウンジフロアに食事が出ている。
 知った顔が二人、ほんらいは応接用の低いウッドテーブルの中央に据えられた銀のドームをみすえながら、じっと対峙している。
 ふたりは同じく潜水艦ビルの住人だ。かたほうはベロニカ、黒髪のジプシーふう美女で日本語が苦手、もうかたほうは龍之介、誰からも(女性からは特に)可愛がられるふかふかの茶髪とつややかな瞳、国籍は知らないけど日本語は話せない。なぜなら彼はチワワだからだ。
「どうしたの?」
 ベロニカに聞くと、彼女は両手にナイフとフォークを握りしめたままこちらを見上げて、
「肉です。焼かれた。今、わたしたちは『待て』です」
 と、歌うようにゆるやかな声でいう。
「誰が待てと言ったの?」
「リュウのマスタです。彼、ワインを届ける。あ、戻ってきた」
 ベロニカの視線を追うと、エレベータから赤ワインの瓶とグラスを二つ持った大柄な男性がひとり、上機嫌そうに降りてくる。反対の手にはもう一つ、ドームをかぶった大皿を支えている。こちらを見て、ちょっと戸惑ったふうに愛想笑いをした。
「こんばんは、壱緒さん」
 外見から予想されるよりさらに低いうつくしい声で彼は挨拶し、テーブルに寄った。龍之介が立ち上がって嬉しそうに彼に寄り添う。
「こんばんは、市原さん。晩餐ですか?」
「そう。ああ、ええと」言いたくなさそうに「よければ壱緒さんもご一緒にいかがですか?」
「いいですね。でも、片付けなきゃなんない仕事があるんで、残念ですけど失礼します」
「そうですか」
 彼はどこかほっとしたように息をつき、そして嬉しそうに微笑んだ。「またお誘いしますよ」
「ぜひ」
 扉をひらいたままぽかんと待っている緩穏なエレベータに、乗り込んで、くるりと振り向いてボタンを押す。
 閉まっていく扉の向こうで、市原さんが携えてきた大きな皿のドームが取り払われて、なかからエスカルゴのバターバジルソテーが出てくるところだった。
 そういえば帰りに窓から入るとき、行きがけに出会ったかたつむりを見なかったなと思いかけて、いやいや、種類違うし、うん、と首を振る。
 扉が閉じて、エレベータが上昇を始めた。

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もっとも平穏な黒猫の飼い方。 © 壱緒 2017. (http://horahuky.blog65.fc2.com/)

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This BlogTemplate's origin was written by Tamico. icene . combined and arranged dy 壱緒. THANKS BOTH.
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